奈良地方裁判所五條支部 平成4年(ワ)43号 判決 1997年10月28日
主文
一 被告は、原告に対し、一八一万四八六七円及び内金一六五万四八六七円に対する平成三年一〇月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを五分し、その四を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。
四 この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。
理由
【事実及び理由】
第一 請求
一 被告は、原告に対し、一一七八万二〇三八円及び内金一一〇八万二〇三八円に対する平成三年一〇月二三日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二 仮執行宣言
第二 事案の概要
原告が、被告に対し、歩道に設置されたポールを再設置せず放置した道路管理の瑕疵により、原告車両が川に転落して損害を受けたとして、損害賠償を請求するのに対し、被告が、右放置が道路管理の瑕疵に当たらず、右転落が原告車両運転手の一方的過失によるとして争う事案である。
一 請求原因
1 当事者
(一) 原告は、トラッククレーンその他建設機械のリース業等を営む株式会社で、トラッククレーン(奈良九九す五八)(以下「本件車両」という。)を所有する者、
(二) 被告は、和歌山県道高野・高野口線の道路設置・管理者である。
2 事故と損害
(一) 平成三年一〇月二二日午後四時五〇分ころ、和歌山県高野・高野口線、和歌山県伊都郡九度山町椎出八七八番先道路(以下「本件道路」という。)で、本件車両が不動谷川に転落する事故が発生した。
(二) 原告従業員藤田順一(以下「本件運転手」という。)は、本件道路付近を南から北に走行していたところ、対向車両(神戸二二か四六九一)(以下「本件対向車両」という。)を認めたので、本件道路の幅員から、擦れ違うことが困難で、本件対向車両が待機することができない道路状況にあったとして、本件車両を不動谷川河川敷上に設置された本件道路の歩道部分に進入させた。
その結果、右歩道部分約七・五メートル(以下「本件転落歩道」という。)が不動谷川に向けて崩れ落ち、そのため本件車両も約五メートル下の同川に転落し、車体各所を損壊した。
(三) 原告は、本件事故によって、次の損害を生じた。
(1) 本件車両を引き上げるに要した費用 一〇七万六〇〇〇円
(2) 近隣上水道補修工事費 六万三六五〇円
(3) 本件車両修理・部品代 四四四万二三八八円
(4) 本件車両休車損 五五〇万円
(5) 計 一一〇八万二〇三八円
(6) 弁護士費用 七〇万円
(7) 合計 一一七八万二〇三八円
3 責任
(一) 本件転落歩道南端から高野橋の北詰までの歩道(以下「本件歩道入口」という。)には、歩道の設置当初である昭和五五、六年ころ、車両が歩道に乗り上げないように、ポールが設置されたが、同ポールはその後破損して撤去され、再設置されることがなかった。
そのため、バス、トラックその他各種車両が対向車を避けるべく、本件歩道入口及び本件転落歩道(以下「本件歩道」という。)に日常的に進入・停車するようになっていた。
(二) そこで、被告は、道路管理者としては、道路の状況からポールを撤去すれば、本件歩道に各種車両が進入し、転落事故も発生しうることを予見すべきであり、速やかにポールを再設置すべき義務があった。
(三) それ故、本件道路の設置管理に瑕疵があったから、その設置者である被告は、国家賠償法二条一項によって、右(二)記載の事故(以下「本件事故」という。)によって原告に生じた損害を賠償すべき義務がある。
4 結論
そこで、原告は、被告に対し右(三)(7)記載の損害合計一一七八万二〇三八円及び右(三)(5)記載の損害計一一〇八万二〇三八円に対する本件事故の翌日である平成三年一〇月二三日から完済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 被告の主張
1 ポール設置の目的
(一) 道路設置基準によれば、車道と歩道間に約一七センチメートルの段差がある本件歩道には、ガードレールは勿論ポール等の設置を義務付けられていない。
(二) 前記一、3(一)記載のポール(以下「本件ポール」という。)は、高野橋の出入車が歩行者を巻き込む事故の発生を未然に防止するために設置したものであり、本件道路を通行する車両の本件歩道への進入を防止する目的で設置されたものでない。
2 歩道進入行為の違法性
本件道路では、車道と本件歩道との間に、白色の実線で車道外側線が引かれており、かかる場合、運転者は道路交通法一七条一項に基づき原則として車道を通行しなければならない。
そして、道路交通法四七条三項又は四八条の規定に基づく場合、例外として車道以外に進入することができるが、本件車両が本件歩道に進入した行為は、その場合に該当しない。
3 予見可能性
本件道路では、車道と歩道間に、右1(一)記載の段差がある上、右2記載の車道外側線が引かれており、本件歩道横には不動谷川があるので、車両が本件歩道に乗り入れることを予見することができなかった。
4 相当因果関係の不存在
本件ポールが車両の本件歩道への進入を防止しており、その再設置義務違反により本件道路に原告主張の瑕疵があったとしても、本件車両は本件ポールが設置されていた位置より北側から本件歩道に進入しており、その瑕疵と本件事故との間に相当因果関係がない。
5 本件運転手の過失
(一) 本件事故現場南側約三五メートル付近の道路幅は六・五メートルであり、その地点又はその更に南側の道路では十分本件対向車両との離合が可能であった。
(二) さらに、本件車両を本件歩道に進入させても、本件対向車両との離合は不可能であった。
(三) しかるに、本件運転手は、重量二六トンの特殊車両を運転しているにかかわらず、右(一)記載の地点で本件対向車両を待ち、そこで離合すべきであるのに、歩道に乗り入れても離合不能な地点まで進行し、かつ本件歩道に進入したもので、本件事故は同人の一方的過失による事故である。
6 過失相殺
仮に本件ポールを再設置せず放置したことが、道路管理の瑕疵に当たるとしても、本件運転手に右5の過失があるから、九割を下回らない過失相殺をするのが相当である。
三 争点
1 本件ポール再不設置は、道路の瑕疵に当たるか。
2 本件ポール再不設置と本件事故との間に因果関係があるか。
3 被告に損害賠償義務がある場合、弁護士費用を除く原告の損害は如何。
4 右の場合、いかなる過失相殺の割合が妥当か。
5 弁護士費用の額は如何程が妥当か。
第三 証拠《略》
第四 判断
認定事実ごとに、末尾の( )内に掲げる証拠によって認定した(《証拠簡略例略》)。
なお、認定に反する証拠又は証拠部分は、認定に用いた掲示の証拠に照らして措信することができない。
一 争いのない事実等
1 原告は本件車両の所有者、被告は和歌山県道高野・高野口線の道路管理者である(争いのない事実)。
2 前記第二、一2(一)記載のとおり本件事故が発生した(争いのない事実)。
3 それは、本件運転手が、本件車両を運転して和歌山県道高野・高野口線を南から北に走行していたところ、本件道路先に本件対向車両を認めたが、本件道路付近の幅員から擦れ違うことが困難で、かつ本件対向車両が待機することができない道路状況にあると判断し(《証拠略》)、本件道路地点で本件車両を不動谷川河川敷上に設置された本件歩道に進入させたためであった(争いのない事実)。
4 その結果、本件車両の重みで、本件歩道が不動谷川に向けて崩れ落ち、そのため本件車両も同川に転落した(争いのない事実)。
二 争点に対する判断
1 争点1(道路の瑕疵)に対する判断
(一) 本件歩道の構造等
(1) 本件事故現場は、不動谷川西側にある高野下駅に通じる高野橋の東側付近の和歌山県道高野・高野口線で(《証拠略》)、本件歩道を含む付近歩道は、昭和五五年一月ころ道路下四・六メートルにある不動谷川に張り出して設置されたもので(《証拠略》)、幅員約四メートルの同県道約七〇メートル区間に設けられていた(《証拠略》)。
(2) その区間には、元々高野橋いずれ側でも、道路の川側にガードレールがあったが、高野橋詰の南側歩道はガードレールを撤去しなくてもよい方法で施工したので、高野橋詰南側県道では車道と歩道間にガードレールが存在したが(《証拠略》)、本件歩道を含む同橋詰北側県道は、既存のガードレールを撤去する必要である方法で施工した上、歩道に縁石を設置すると建設省歩道設置要綱でガードレールの設置を義務付けられないので、それを撤去して歩道を設置した(《証拠略》)。
(3) 本件転落歩道以北の歩道には、全部分において東部分に幅高さ共二〇センチメートルの縁石が存在している(《証拠略》)。
(4) 本件歩道の東側には、本件道路が車道の外側の縁線を示す必要がある区間であるとして、道路標識、区画線及び道路標示に関する命令五条に基づき、区画線である車道外側線が引かれていた(《証拠略》)。
(5) 本件転落歩道は、ジスロン組立歩道により施工されており、その南部分では長さ二・五メートルのPC床版が、同北部分では五メートルのPC床版が各用いられていて(《証拠略》)、両部分の接面においては車道より一七センチメートル高くなっていた(《証拠略》)。
これに対し、本件歩道入口は現場打設コンクリート床版が用いられ、体が不自由な人も車椅子でスムーズに高野橋から歩道に移動することができるように、本件歩道入口と高野橋北詰との接面及び本件歩道入口と車道との接面では、車道と歩道の高低さをなくしていた(《証拠略》)。
そして、右(2)の長さ二・五メートルのPC床版(以下「本件南側床版」という。)は、傾斜させて施工して、その両側と同じ高さで接続していた(《証拠略》)。
(6) 本件転落歩道は、集中荷重二トン五〇〇キログラムまで耐えられるよう設計されていて(《証拠略》)、四トン車までの重量に耐えることができ(被告平成八年五月二〇日付準備書面)、本件歩道入口は、車両の車輪がかかる可能性を考慮して、さらに強度を強くしてあった(《証拠略》)。
(二) 本件ポールの設置等
(1) 本件歩道を新設した際、本件ポールを設置した(《証拠略》)。
それは、本件歩道入口のうち、本件歩道入口と高野橋北詰との接面から一・七〇メートル、歩道西端から一・四五メートル、歩道東端から〇・二七メートルの位置にあった(《証拠略》)。
それ故、車両が車道から本件歩道入口及び本件南側床版に乗り入れることを妨げる位置にあったものと認定することができる。
(2) 昭和六三年三月に本件歩道が補修されたが、本件ポールは、その時には傾いていたものの、存在していた(《証拠略》)。
(3) しかし、平成三年四月ころ、本件ポールがさらに舗道側に傾いたので、歩行者の安全を配慮して、被告職員がこれを撤去した(《証拠略》)。
(4) 本件事故後である平成四年一〇月までに、被告は、本件歩道入口の一部、本件歩道入口と高野橋北詰との接面から〇・九五メートル、歩道西端から一・四五メートルの位置にポールを、本件転落歩道以北の歩道の縁石上にフェンスを新設した(《証拠略》)。
その結果、車両が車道から本件歩道以北の歩道に乗り入れることは全く不可能になった。
(三) 本件ポールの設置目的
(1) 被告は、本件ポール設置の目的が、高野橋から本件道路に進入する際、本件道路の幅員が狭いため、自動車の後輪で歩行者を巻き込むのを防ぐためで、車両の歩道乗り上げ防止用でないと主張し、証人亀井は、これに沿う証言をした上、右新設のポールも同趣旨に基づき設置された、また新設のフェンスも歩行者の道路横断防止用であると証言する(《証拠略》)。
(2) しかし、新設のフェンスは、フェンス設置部分の県道東側の状況から考えて、事故後、歩行者が道路を横断する機会が増加し、または増加することを予想すべき事態が生じたと認めがたいこと(《証拠略》)に加え、その設置の時期からみて、本件事故と同様の事故の再発を防止することも視点にいれて、車両の乗り入れ防止用に設置したものと判断するのが相当である。
それ故、証人亀井の右証言は容易に措信し難く、他に右認定を覆す証拠もない。
(3) 新設ポールは、フェンスの新設に伴い、車両の歩道乗り入れの可能性がなくなったので、その設置の目的が被告主張の右(1)の目的に限定されたものと判断することができるが、そのことから周辺の状況の異なる本件ポールの設置目的が同様の目的のみで設置されたものであると判断することができない。
本件ポールの位置は、前記第四、二、1(二)(1)記載の位置にあり、同目的のみによって設置されたものとしては、余りにも北寄りに設置されており、同目的を有していたとしても、合わせて車道及び高野橋詰と段差がない本件歩道入口並びに車道と段差が少ない本件南側床版からの歩道乗り入れを妨げる目的も合わせもっていたものと判断するのが相当である。
(四) ポール不設置の瑕疵
(1) 一般に、本件道路のように車道外側線間距離が四・一〇メートルしかない狭い道路において、離合困難な際車両が一時的に車道外側線の外側は勿論歩道にまでも乗り入れて離合することがある。
それ故、かかる行為が道路交通法上違法なものであっても、その違法性は社会通念上少ないものと意識されているから、道路管理者は、歩道に乗り入れた際危険を生じるおそれがある場合、かかる可能性があることを予見して、その乗り入れを防止する方策を講じる必要がある。
(2) また、本件においては、高野橋南詰から南の県道には、車道と歩道との間にガードレールが設置されている(《証拠略》)。それとの対比において、運転者に対し、本件歩道への乗り入れが物理的に危険であると判断することを期待しがたい。右(二)(3)のとおりフェンス新設は、かかる事態を配慮したものと判断することができるから、それとの対比においても、同様に考えるべきであった。
(3) さらに、本件歩道入口が車道と同じ高さであり、本件転落歩道の一部が車椅子で乗り入れるため斜面になっていたことも、運転者に歩道に乗り入れて一時的な退避ができるものと判断させ易い形状であった。
(4) 加えて、本件歩道以北の歩道が川に張り出していることを認識することは容易でない。
そこで、本件対向車両の運転手も、同人がクレーン車の運転手であれば、本件歩道が川に張り出していることを知らずに、乗り入れて交わそうとすると証言しており(《証拠略》)、毎日新聞平成三年一〇月二七日も、本件事故を「観光バスもしばしばすれ違いのため歩道に乗り入れる場所で『いつか事故が』と地元の人らが恐れていた事故だった。」「近くの人によると、これまでも観光バスが対向待ちのためにこの歩道に乗り入れかけたことがたびたびあり、この都度『危ないからやめなさい』と注意していた」と報じている(《証拠略》)。
(5) 本件歩道近くの歩道には補修部分があるが(《証拠略》)、そこは平成三年二月ころ被告がPC床板のひび割れを確認して修理したところであった(《証拠略》)。また、本件ポールも早くから傾き、被告職員が撤去すべきと判断するまでに損壊していた。
それら損壊は、歩行者の歩行によって生じがたいから、自動車の乗り入れによる蓋然性が高いと推認することができ、そのことは、かかる損傷を把握していた被告がその修理時速やかに自動車の乗り入れの防止策を講じるべきことを示唆していた。
(6) これら諸般の事情を考慮すると、被告が本件ポールを撤去するだけで再度同様のポールを設置しなかったことは、事故防止措置義務に違反するから(《証拠略》)、本件歩道の管理の瑕疵に当たり、その管理者である被告は、国家賠償法二条により、同瑕疵によって生じた損害を賠償する義務がある。
2 争点2(因果関係)に対する判断
被告は、本件車両が本件ポールが設置されていた位置より北側から本件歩道に進入したと主張し、図面(《証拠略》)を援用するが、図面(《証拠略》)を対比すれば、同援用図面の本件車両の進入経路によっても、本件ポール跡を越えて本件車両が本件歩道に乗り入れたものと認められる。なるほど、本件運転手が作成した事故発生状況報告書(《証拠略》)の記載によれば、本件車両が本件ポールが設置されていた位置より北側から本件歩道に進入したと認められるが、同図面は全くの略図であり、これを唯一の根拠にして被告主張を認容することはできない。
橋本警察署からの取り寄せ文書である乙一九記載の転落車両の位置、乙一〇、一八、検甲一の一、検甲三の六、検乙二、五の各写真からみて、進入経路図(《証拠略》)の進入位置の記載は概ねこれを措信することができ、また証人藤田の段差のないところから左車輪を本件歩道に乗り入れた、本件ポールがあれば、乗り入れていないとの証言も合わせ考えると、本件ポールが存在すれば、かかる進入経路をとることがなかったものと判断することができる。
それ故、原告主張の瑕疵と本件事故との間に相当因果関係がある。
3 争点3(弁護士費用を除く損害)に対する判断
(一) 原告は、本件事故によって、次の出費を余儀なくされた。
(1) 本件事故により転落した本件車両を平成三年一〇月二二日から同月二三日までの間に引き上げたが(《証拠略》)、それに要した費用は、トラッククレーン四五トン二日分三六万円、トラッククレーン二五トン二日分二一万六〇〇〇円、人夫賃延べ二〇人分五〇万円、計一〇七万六〇〇〇円であった(《証拠略》)。
この点、被告は、人夫賃について信用性がないことを主張するが、具体的な反証をしないので、右証拠により認定せざるをえない。
(2) 本件事故により坂中初子及び喜多万里方等の水道管が損傷し(《証拠略》)、原告は、和歌山県伊都郡九度山町椎出区が発注して栗林水道工業所が施工した補修工事費五万八七二〇円、原告が発注してまえだ住宅設備が施工した補修工事費四九三〇円、合計六万三六五〇円を支弁した(《証拠略》)。
(3) 本件事故により損傷した本件車両の修理・部品代等として、次のとおり支払った。
a 三和工作所
(a) 平成三年一二月一〇日支払分 六万七〇〇〇円(《証拠略》)
(b) 同四年二月一〇日支払分 二〇万八〇〇〇円(《証拠略》)
(c) 小計 二七万五〇〇〇円(《証拠略》)
b 北山車両工業
(a) 平成三年一二月二〇日支払分 九万五〇〇〇円(《証拠略》)
(b) 同四年一月一〇日支払分 九万円(《証拠略》)
(c) 小計 一八万五〇〇〇円(《証拠略》)
c 杉本重機サービス 九二万五一四六円(《証拠略》)
d マルカキカイ株式会社 二一七万三三一八円(《証拠略》)
e 株式会社ダイコー 八九〇〇円(《証拠略》)
f 株式会社松田良商店 三万三九九〇円(《証拠略》)
g 計 三六〇万一三五四円
なお、証人佐古は、マルカキカイ株式会社への支払について見積額と支払額が違うのは、大阪特殊車両株式会社を抜いて直接部品を買ったからと証言するが、請求書(《証拠略》)によると、見積額と支払額の差は返却部品(金額一四万四七八〇円)の存在と値引き九〇万四二九三円によるものとなっており、原告が値引き分相当額を他に支払った事実が立証されていないので、請求書(《証拠略》)の部品代大阪特殊車両(株)三〇一万四三一〇円全額の記載及び右証言部分は措信しがたく、他にこれを証する証拠がないから、右dのとおりマルカキカイ株式会社への支払額二一七万三三一八円を越える金額につき損害があると認定することができない。
(二) また、原告には、本件車両の引上げ・休車によって本件車両を使用することが出来ない期間があった。それらによる逸失利益については、次のとおり判断した。
(1) 自動車損害保険の算定に用いる代車料の一日当たりの代金と比較すると、証人佐古の本件車両一日当たり休車損が一〇万円である旨の証言は、措信することができると判断した。
(2) しかし、原告主張の事故日から平成三年一二月末日まで休車を余儀なくされた事実、及び従来日祝日を除く全日について本件車両が稼働していた実績を証する証拠がなく、証人佐古の証言にもそれらを積極的に証明するものがない。そして、通常容易に、本件車両の修理に二月以上の期間を要するとは認め難く、また本件車両のような特殊車両が労働日全日稼働するとも認め難い。
(3) それ故、直ちに原告主張の五五〇万円全額の休車損を認定することはできないとはいえ、相当額の休車損があったことは明らかであるので、《証拠略》によって修理が行われていたと認めることができる平成三年一二月一四日までの五三日間を修理に要したものと認定し、本件車両の稼働率を三分の二と推定して、休車損を次のように三五三万三三三三円と算定した。
一〇万円×五三×二÷三=三五三万三三三三
(三) よって、本件事故による原告の損害は、弁護士費用を除いて八二七万四三三七円である。
4 争点4(過失相殺)に対する判断
(一) 本件車両は、長さ一一・一三メートル、幅二・六二メートル、高さ三・五八メートル、車両重量二六トン二九〇キログラムで(《証拠略》)、道路法四七条一、二項所定の車両に該当し、その運行には同法四七条の二の規定による道路管理者の許可が必要であるのに、原告は右許可なく本件道路を運行していた(争いがない事実)。
(二) 本件道路には、本件転落歩道縁石の内側は勿論、本件歩道入口にも車道外側線が引かれていた(《証拠略》)。
この点も、証人藤田は、乗り上げたところには外側線は引かれてなかったと証言するが、同証言も、右認定に用いた証拠に照らし措信することができない。
(三) 車道外側線は、道路交通法の規定の適用については、路側帯を表示する道路標示と見做されるから(道路標識、区画線及び道路標示に関する命令七条)、本件道路の西側車道外側線の西側は、本件歩道の東側車道外側線までの部分も歩道と解され、原則として車両の乗り入れが禁止されている(道路交通法一七条一項本文)。また、同項但し書により例外が定められているが、車道外側線の西側に幅員が〇・七五メートルを超える路側帯がなく、歩道を横断することもできない本件では、その例外に当たる場合がないから、本件運転手は本件歩道は勿論、右路側帯にも乗り入れてはならなかった。
それ故、本件運転手は、本件道路を進行するに当たり道路交通法の定めに従い、その外側にはみ出して本件対向車両と離合しようと考えるべきでなかった。
(四) 離合には車幅プラス一メートルの道幅を要する上、本件道路は車線外線間距離四メートル一〇センチメートルしかないから、右(一)のとおり巨大な本件車両が、本件歩道に乗り入れても、長さ八・九九メートル、幅二・四九メートル、高さ三・四五メートル、車両重量八トン九一〇キログラムの本件対向車両(《証拠略》)と離合することができなかった(《証拠略》)。
そして、本件運転手が本件対向車両を発見した位置では道路幅員は六・五メートルもあったから(《証拠略》)、発見と同時に停車して同車の進行を待機すべきであり、そうすれば、本件車両と本件対向車両の離合が可能であった。
この点、証人藤田は、本件対向車発見時この地点で止まるのは本件車両では無理である旨証言するが、同証言は、右認定に用いた証拠に照らし措信することができない。
また、本件対向車両が本件歩道から約五〇メートル北で停車した位置付近でも、車道幅が六メートルもあったから(《証拠略》)、本件車両と本件対向車両の離合が可能である可能性が高かった。そして、本件対向車両の運転者の判断で、同車は、その場所で待機していたから(《証拠略》)、本件運転手は同地点まで進行して離合を試みるべきであった。
(五) 本件運転手の本件道路の運行実績は一〇回以上であるが、そのうち北から南に進行する際、かなり回数対向する二トンないし四トンのトラックや乗用車が歩道に乗り上げてすれ違ったことがあった(《証拠略》)。そして、本件事故当日も、本件運転手は、対向する二トンないし四トンのトラックに本件道路の歩道に乗り上げてもらった(《証拠略》)。しかし、いずれもこの程度の重量の自動車であったので、事故に至らなかった(《証拠略》)。
一般に歩道の耐重量能力は乏しいから、安易に歩道に乗り入れて離合することは相当でない上、本件車両の重量に一般車に比し極めて重いから、かかる経験があったとしても、本件運転手は、本件車両の重量を考慮して本件歩道に乗り入れることを控えるべきであった。
(六) 右(一)ないし(五)のように原告及び本件運転手には重大な過失があった。その過失と前記第四、二、1に示した瑕疵の程度を比較考量すると、原告側の過失を八割と認定して過失相殺するのが相当である。それ故、右2において認定した本件事故による原告の損害八二七万四三三七円の二割に当たる一六五万四八六七円の限度で原告の損害賠償請求権を認容することにした。
5 争点5(弁護士費用)に対する判断
それ故、原告には被告に対し一六五万四八六七円の損害賠償請求権が生じたが、被告が右金員を支払わないので、原告は訴訟の提起に踏み切らざるをえず、そのため訴訟代理人にこの訴訟を委任し、弁護士費用を支弁する必要があったし、それに要する費用は本件事故と因果関係があるから、被告の負担すべきものであるところ、被告が負担すべき弁護士費用の額は、右賠償認容額では約一割に当たる一六万円が相当である。
第五 結論
よって、原告の本訴請求は、右合計一八一万四八六七円及び内金一六五万四八六七円に対する本件事故発生日の後である平成三年一〇月二三日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度において認容すべきであるが、その余は失当として棄却すべきである。
そこで、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 田川和幸)